金鮎の幻想的な世界
青森 赤石川は世界遺産の白神山地のブナ林から湧き出る清冽な水だ。
そこで泳ぐ鮎は“赤石川の金鮎”と呼ばれ、全国にその名をとどろかせている。
私達はもう10年来、毎年7月の解禁にはサオを出している。
今年の白神山地は雨が降ったりやんだりで、増水とニゴリで川に入ることが危険な状態が続いた。今回は本命の堰堤下にも入れず、これはいたしかたないとあきらめていた。
到着して4日目。
水もようやく引いて、ニゴリも薄くなってきたので、旅館の前の“ナベ渕”に弘前の釣り人と夕釣り。しかし各1尾と振るわず、彼は6時半に納竿。
竿先が見えづらくなってきたその時、私は幻想の世界へ足を踏み入れました。
目の前で鮎たちが突如あらわれて踊りだしたのです。
東京では「ハネる」、北陸は「飛ぶ」と言いますが、それとは違って、岸辺の私の川尻と真ん前、そして上手の3組に分れて“鮎の妖艶な舞”が始まりました。
その光景は2尾が向かい合って、腹と腹をスリ合わせるように、90度水面から立ちあがって、まるで2尾がチークダンスでもしているかのようでした。
鮎たちは私に向かって「ご一緒にどうぞ」と誘うように、2匹で舞う姿の美しさ、神秘性に私は我を忘れただただ眺めていました。
ふと握っているサオに気づき、慌ててサオを川下へ入れると下バリ、上バリと一荷でやってきます。
タモ網で受けるとハリがからむので、もっぱら手で受けるも、17-18センチはあるので3割はずれます。
上バリの黒髪と椿姫に入れ食い。
7時半、娘の紀子と宿のご主人の吉川さんが心配して迎えに来てくれて、そうするとその乱舞は終演を迎えました。
吉川さんは、今日は村のお祭りだったので、鮎もそれにあやかって踊ったのだろうと言って笑っていた。
ヤミの中で何組もの鮎が踊っていた、その時間はほんの数分だったかもしれないし、何時間もあったような、そんな感じがするのです。
いまでもあれは夢の中の出来事だったのかと。